企業を熱くする最新テクノロジ

携帯電話・スマホの位置情報~
精度とリアルタイム性が向上アプリケーションの表現力が広がる

(2006年)

GPS(全地球測位システム)
アプリケーション

GPS(全地球測位システム)を装備して,屋外で数m程度の誤差で位置を把握できるようになった携帯電話・スマホの位置情報システムが進化を続けている。アプリケーションの表現力が向上したほか,新技術の導入で,屋内や地下街などこれまで測位不可能だった場所で利用できるようになる。

ピンポイント天気予報
位置情報を使ったサービス

ピンポイント天気予報や歩行者ナビゲーション,営業員の管理…。携帯電話・スマホの位置情報を使って実現できるサービスは,一般ユーザー向けから企業向けまで多岐にわたる。現在では,さまざまなシーンで位置情報を使ったサービスを利用できる状況になったが,ここに至るまで,いくつかの技術的進化が必要だった。

セル方式
基地局がカバー

携帯電話・スマホ向けの位置情報サービスが日本で開始されたのが2000年。サービス開始当初は,携帯電話・スマホが接続している基地局の情報を利用して位置を算出する「セル方式」が使われていた。この方式は基地局がカバーする範囲をある地点で代表するため,位置の精度はセルの大きさに依存する。携帯電話・スマホのセルのサイズは一般に数100m~数km程度なので,ユーザーの位置を高い精度で把握できない。また,1つの基地局がカバーするエリアが狭い都市部に比べ,エリアが広い郊外では精度が悪くなる。

交通情報
店舗検索

この技術を利用して実現されたのが,ピンポイント天気予報や周辺の交通情報,周辺店舗検索などのサービスである。しかし,精度が悪いことから,アプリケーションが限られた。

GPS測位方式で精度が格段に向上

GPSの精度
位置精度の高さ

翌2001年にはGPS(全地球測位システム)を利用した位置情報サービスが開始され,高い精度で位置を把握可能になった。GPSの精度は,見通しの良い場所で数m~数10m。この位置精度の高さを生かして,提供されるサービスの幅も広がった。

居場所を調べるサービス
携帯電話・スマホを探すためのサービス

個人向けとしては,子供やお年寄りの居場所を調べるサービスなどが登場。紛失した携帯電話・スマホを探すためのサービスも始まった。

位置管理サービス
ソリューション

企業向けでは,車両位置管理や,社員・作業員の位置管理サービスを提供できるようになった。車両位置管理では,現在地を把握することで配送先を効率良く指示可能になる。また,定期的に配送車両の位置を取得することで移動ルートを分析し,効率的な配送ルートの検討にも役立てられる。その場所にいたことを位置情報によって証明して,外勤者の出退勤管理や勤怠管理を実施するソリューションも登場した。

携帯電話・スマホの処理能力
支援サーバーに送信

ただし,当時の携帯電話・スマホの処理能力はGPSによる位置算出を行うには不十分だった。そこで,携帯電話・スマホ本体では位置を算出せずに,GPS衛星から受信したデータを携帯電話・スマホネットワーク経由で支援サーバーに送信し,ここで算出するというシステムになった。このため,位置算出までに20~30秒程度の時間と通信料金がかかるという問題を抱えることになった。

半自律型GPS測位でリアルタイム表示が可能に

半自律型
位置算出が可能

これらの問題を克服できたのが,携帯電話・スマホ本体だけで位置算出が可能になった2003年からだ。ただし,効率よく位置を算出するために衛星の軌道情報をサーバーから定期的に受信するので,「半自律型」と呼ばれる。

リアルタイム表示
歩行者ナビゲーション

計算は端末で実行するので,位置算出にかかる時間は数秒程度に短縮され,連続測位による現在地のリアルタイム表示が可能になった。この結果登場したのが,歩行者ナビゲーションのようなサービスだ。

通信料が低減

測位のたびにサーバーとの通信をする必要がなくなったので,測位にかかる通信料が低減されるというメリットもあった。

GPSの電波が届かない場所での測位が課題

GPS測位方式

半自律型のGPS測位方式の登場で高精度かつ高速に位置を特定できるようになった結果,従来から検討されてきたサービスがほぼ実現可能になった。今後はこれらのサービスを,場所を選ばずに利用可能にしていく必要がある。

GPS衛星の電波
電波反射

現在の携帯電話・スマホ測位システムではうまく測位をできない場所が多くある。例えば,地下街,屋内やビル陰などではGPSを使って正確な位置を特定できない。窓から離れた屋内や地下街では,GPS衛星の電波が届かないために,そもそも位置を割り出せない。ビル陰の場合は,ビル壁面での電波反射により,正確な位置の特定が難しい。さらに,現在のシステムでは垂直方向の位置を正確には測位できない。平面的には位置が特定できても,そのユーザーが何階にいるのかは判断不可能だ。

アプリケーション
GPS測位

こうした制約はアプリケーションの自由度を縛る。例えば物流管理。GPS測位では屋外での位置把握は可能だが,工場や倉庫内の機器や人員の位置管理はできない。商業施設や美術館,テーマパークなどの施設内では,歩行者ナビゲーションや子供の位置把握,場所に応じた情報配信などのサービスが提供不能だ。

近距離無線と内蔵センサーが穴を埋める

無線LAN,Bluetooth,RFID
GPS情報

GPS測位の問題を解決する手段として,有力なのが次の2つの技術だ。1つは,無線LAN,Bluetooth,RFIDなどの近距離無線を利用した「ローカル測位」。もう1つが,他の内蔵センサーでGPS情報を補完する「センサー測位」だ。

ローカル測位
近距離無線

ローカル測位のための近距離無線については,無線LANやBluetoothを搭載した携帯電話・スマホの登場により,位置情報を取得する手段として利用できる環境が整いつつある。RFIDについては,タグを読み取り可能な外付け型リーダーが販売されている。

アクティブ・タグ
アクセス・ポイント

近距離無線通信による位置取得の原理は,携帯電話・スマホの基地局を利用したセル方式と同様のものだ。無線LANのアクセス・ポイント(AP),Bluetooth通信機器,RFIDのアクティブ・タグなどの無線発信機(以下,無線LANを例としてAPと呼ぶ)が携帯電話・スマホの基地局の役割を果たす。携帯電話・スマホが電波を受信したAPの位置を,携帯電話・スマホの位置とする。

携帯電話・スマホの基地局
3点測量の原理

同じセル方式でも,携帯電話・スマホの基地局と比べてセル半径が小さいため,精度の高い位置情報を得られる。具体的には,無線LANが数~数10m,Bluetoothが数m,RFIDが数10cm程度の誤差で位置を割り出せる。複数のAPからの電波を利用して,3点測量の原理で位置算出すれば,より高精度な位置を取得可能だ。さらにビル内では,各階にAPを設置することで,何階にいるかといった高さの情報も得られる。

GPS測位方式
端末とサーバー

ただし,課題もある。ローカル測位は近距離無線設備のある場所でしか使えない。衛星からのデータを応用するGPS測位方式の場合は,端末とサーバーで対応するだけでよかったが,ローカル測位の場合はあちこちにAPを設置する必要がある。また,電波は建物の構造などの周辺環境に影響されやすいため,高い精度を得るためには,周辺環境に応じてAP1台ごとに電波出力の微調整が必要となる。

センサーでGPS測位情報を補完

センサー測位方式
カー・ナビゲーション・システム

一方,内蔵センサーでGPSの位置情報を補完するセンサー測位方式は,カー・ナビゲーション・システム(カーナビ)と似た仕組みだ。

ジャイロ・センサー
カーナビ

カーナビでは一般にタイヤの回転数から速度を得る車速センサーと,角速度を検知するジャイロ・センサーを利用している。これらによって得られる距離や方向を,GPSで取得した直前の絶対位置に組み合わせることで,GPSの電波の届かない場所でも自位置をリアルタイムに算出できる。同様の仕組みを携帯電話・スマホが持つことで,GPSの電波を受け取れない屋内や地下街などでの自位置の検出が可能になる。

携帯電話・スマホ
端末

ただし,携帯電話・スマホの場合,真っ直ぐ歩いてもポケットやかばんの中で不規則に揺れることがあるため,端末の方向と移動方向は必ずしも一致せず,ジャイロ・センサーによる移動方向の算出は困難となる。また,タイヤの回転数のような指標がないため,移動方向と距離の算出には別のシステムが必要だ。

歩行者ナビゲーション
加速度センサー

そこで,携帯電話・スマホの歩行者ナビゲーションでは車速センサーに代わるものとして,加速度センサーが考えられている。加速度センサーは,万歩計などに使われているもので,人が歩く際の振動を加速度の波形から検出している。これを使って歩数をカウントし,歩幅を掛け合わせることでおおよその移動距離を算出できる。

地磁気センサー
地磁気の情報

ジャイロ・センサーに代わるのは地磁気センサーである。センサーで取得した地磁気の情報を元に進行方向を算出できる。

ナビゲーション・サービス

一部機種ではあるが,既に地磁気センサーが搭載された携帯電話・スマホが登場しており,ナビゲーション・サービスでは地図を進行方向の向きに表示する機能で利用されている。

GPSが搭載
位置情報サービス

加速度センサーが搭載された携帯電話・スマホも数機種発売されている。ただし,現在のところそれらの機種にはGPSが搭載されておらず,位置情報サービスには利用されていない。

センサー測位
GPS電波

センサー測位は,仕組みとしては単純だが,実用レベルの精度を得るには,次の2点が課題となる。まず,GPS電波の届かない場所で,長い間ユーザーが移動していると誤差が蓄積されるという点。もう1つは,携帯電話・スマホの持ち歩き方に影響を受ける点だ。ズボンのポケットやかばんの中にある場合や,手に持って歩くなど多様な方法で運ばれるため,どの場合でも歩行の方向と歩数の正確な計算が必要になる。

測位技術のシームレスな連携

測位技術

ここまで述べたような測位技術にはそれぞれ長所短所があり,その特徴に合った用途によって使い分けられる。これらの技術を単独ではなく,組み合せて利用すれば,各技術の短所を補い合うことができ,より高度な要件を満足できる。

GPSとBluetooth
GPSと無線LANを搭載

現在は,GPSとBluetooth,またはGPSと無線LANを搭載した端末がある。これらの端末では,屋外ではGPS,屋内ではローカル測位を利用することで,場所を選ばずどこでも位置を測位できる。さらにGPSとローカル測位を自動的に切り替えることで,利用者は屋内外を移動する際にも測位方法を意識せず,シームレスに位置情報を取得できる。

セル方式によるローカル測位
位置測位を実現

GPS,ローカル測位に利用可能な近距離無線に加えて,加速度センサーと地磁気センサーが1台の端末に搭載されれば,より高精度で場所を選ばない位置測位を実現できるだろう。屋内ではセル方式によるローカル測位でも詳細な位置取得が可能となる。

APが設置されていない場所

APが設置されていない場所でも,最後に位置が取得できた場所からある程度の範囲であれば位置を把握できるようになる。この結果,屋外で提供されているさまざまなサービスが,屋内や地下街などでも利用可能になる。

屋外のGPS測位
GPSの値が信用できないと判断

屋外のGPS測位でも,ビル街などでの測位精度の低下を補える可能性が高まる。ビル陰では反射波によって,ビルの反対側にいるように計測されるケースがある。この場合,以前の位置からいきなり別の地点に高速度で移動したように見える。加速度センサーで歩数をカウントし,高速度で移動していないことが分かれば,GPSの値が信用できないと判断できる。

端末とインフラのコストが課題に

このようにGPS測位だけでは計測できない場所でも精度高く位置を特定することは,技術的には解決可能である。しかし,実現までの課題は山積みだ。

デバイスを搭載
デバイスのコストダウン

まず,端末の問題。現時点ではGPS,近距離無線,加速度/磁気センサーの全てのデバイスを搭載した携帯電話・スマホは存在しない。デバイスのコストは,携帯電話・スマホの価格に直結する。一般に,どのデバイスを搭載するかの判断はユーザーのニーズの大きさに依存する。単に位置情報サービスの精度を上げるためだけにこれらのデバイスを搭載するのは現実的ではない。個々のデバイスのコストダウンとともに他の用途での利用価値を見出すことが重要になる。

APを設置するコスト

さらに,近距離無線方式ではAPを設置するコストを誰が負担するのかといった問題もクリアされていない。この負担のあり方も,今後検討が必要だろう。

記者の視線

位置情報の精度・エリア向上で真のユビキタス環境に近づく
ユビキタス・コンピューティング

屋内や地下街での位置情報を携帯電話・スマホで精度良く取得できるようになれば,真の「ユビキタス・コンピューティング」に1歩近付くことになる。

どこでもコンピュータが使える
コンピューティング環境

現在,ユビキタス・コンピューティングという用語は,どこでもコンピュータが使えるという意味で使われることが多い。しかし,本来の意味は違う。「そこら中にネットワーク化されたコンピュータが組み込まれ,ユーザーはコンピュータの存在を意識することなくサービスを利用できるコンピューティング環境」を指す。

登録したスケジュール

例えば,次のような例だ。オフィスから出て最寄の駅の改札をくぐる。これを検知したコンピュータは,その人が向かっている方向,現在の時間,その人が登録したスケジュールなどを調べる。“帰宅”と推測できれば,家に着くころにちょうど快適な温度になるように,部屋の空調を調整しておく。

ユーザーに知らせる

営業先に向かうとき,スケジュールや方向,時間などから「遅刻しそうだ」と判断。交通情報や道路状況を自動で調べ,最適な経路を判断してユーザーに知らせるとともに,先方の電話番号を表示し,電話をかけるように促す。

人の意図を読むシステムに壁

各種のセンサーなどの情報を総合
コンピュータが推測

とはいえ,こうしたシステムを実現するためのハードルは高い。まず,各種のセンサーなどの情報を総合し,「誰が,何を,いつ,どこで,どのようにしたか」を分析。その上でなぜそのようなアクションを起こしたのかをコンピュータが推測しなければならない。

加速度センサーやRFIDのリーダー
マイクやカメラ,指紋センサーなど

現在の携帯電話・スマホには,マイクやカメラ,指紋センサーなどが付いている。機種によっては,加速度センサーやRFIDのリーダーも付いている。ただし,これらの情報を集めて分かるのは「誰が,いつ」という情報まで。「何を,どこで,どのように」は分からない。スケジュールと連携すれば,ユーザーの行動をある程度推測できるが,入力忘れなどを考えると情報の正確性に疑問が残る。

正確な位置情報で質が変わる

パソコンの操作履歴が情報と連携

しかし,これに正確な位置情報が加わればぐっと確実性が高まる。例えば,スケジュールに予定がない状態で,位置情報でオフィスの自席にいると確認できれば,パソコンに向かって仕事をしている可能性が高いと判断可能。もし,パソコンの操作履歴がこうした情報と連携できるなら,オフィスでどんな仕事をしているかまで分かるはずだ。

“遅刻アシスト”サービス
スケジュールと連携

一方,屋外で走る速度で移動していれば,急いでどこかに向かっているのではないかと類推できる。加速度センサーと組み合わせれば推測の確実性が増す。加えて,スケジュールと連携すれば,先に挙げたような“遅刻アシスト”サービスを実現できる。

相関関係を集めたデータベース

ユーザーの行動が分かれば,ユーザーの意図を行動と意図の相関関係を集めたデータベースを使って割り出せる。

ユーザーにカスタマイズされた推測

もちろん,このデータベースは初めのうちは類型化された単純な意図しか割り出せないだろう。しかし,改良を加えることでより複雑な意図を読めるようになる。学習により,それぞれのユーザーにカスタマイズされた推測もできるようになるに違いない。

位置情報インフラの設備コスト

いずれにせよ,位置情報が正確に割り出せない限り,こうした先読みサービスへの発展はない。位置情報インフラの設備コストをどこで吸収するか,知恵が求められそうだ。

逆SEOとスマホ位置情報の用語解説

歩行者ナビゲーション

歩行者ナビゲーションは、目的地までガイドするサービス。KDDIのEZナビウォークでは,電話番号,店名などで目的地を設定すると,歩行者を目的地まで誘導する。

GPS

GPS=global positioning systemの略。米国が軍事用に打ち上げた20数個のGPS衛星から衛星の軌道と,時刻のデータを含む電波信号を受信機で受け取り,時間差により衛星からの距離を算出する。算出は三角測量の原理を用いて受信機の位置を特定する。最低4個の衛星から電波を受信できれば位置を特定できる。

Bluetooth

Bluetooth=エリクソン,米IBM,米インテル,フィンランドのノキア,東芝などが中心となって策定した近距離無線通信技術。携帯電話・スマホとヘッドセット,PDAとパソコンなど,身の回りの機器を無線で結ぶことを目的に作られた。

RFID

RFID=radio frequency identificationの略。IDを埋め込んだ微小チップ(RFIDタグ)をモノに付けることで商品識別・管理をするために用いられる。位置測位はタグ情報に位置情報を関連付けておくことで可能になる。

ジャイロ・センサー=角速度を検出するセンサー。動いている物体に回転を与えると,回転と垂直方向に力が発生する「コリオリ力」を利用して角速度を検出する。